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矢澤佳枝さん

人類と新型コロナの戦いはいよいよ長期化し、冬を超え、春になった。新しい生活様式に慣れ、もはやコロナ前の生活を思い出すことができない。マスクを着用していない人とすれ違うと、反射的にギョッとしてしまうぐらいである。この一大事が農業にはどんな変化を及ぼし、これからどんな変化があるのかと考えながら、久しぶりに矢澤さんの農場へと足を運んだ。

今回お会いした矢澤佳枝さんは、農場での仕事の傍ら、独学で野菜ソムリエの資格を取得した。

「野菜ソムリエは、日本野菜ソムリエ協会が認定する民間の資格で、野菜・果物の幅広い知識が問われます。夫(先代社長の矢澤睦さん)が病気で治療をしているときに、自分には何ができるだろうと考え、悩んだ時期があったのですが、やはり食事でも支えたいと思い至り、料理や食材について改めて勉強しました。」

野菜ソムリエの資格の活かし方は様々で、料理教室を開業する人もいれば、看護師が仕事に取り入れるために取得するケースなどもある。矢澤さんの場合、きっかけは家族と自分自身の食を見つめ直すことだった。その結果が、図らずも間接的に生産者としての仕事につながっているように私は感じた。野菜を作る人と買う人の間には様々な職業の人々が関わり、時に複雑なフードチェーンを形成している。その混沌の中で野菜ソムリエは、関係者間の橋渡しとして、食文化を豊かにすることができる存在なのではないか。
「資格を持って今後どう展開するかは、まだ具体的に考えていません。今は野菜ソムリエプロの取得に向けて勉強しています。プロのほうは勉強の範囲が広くなります。ブランディングやマーケティングといったビジネスの知識や、企画書の作り方、プレゼンテーションなどもあり、知識を深めるだけでなく、それを社会にどう還元していくかという実践的なスキルが求められます。」

これまで生産者として規模を拡大しながら、絶えずマーケットに良質な野菜を提供してきた矢澤さんの事業が、佳枝さんを軸として全く新しい方向の新展開を見せるかもしれない。お話を聞きながら、そんな期待を密かに抱いた。帰り際、「そういえば」と言って、佳枝さんは薬膳コーディネーターの資格もお持ちだということを教えていただき、医食同源という言葉を思い浮かべながら帰路についた。

後日調べたところ、「医食同源」の初出は1972年までさかのぼるらしい。日本経済における高度成長期の終盤にあたり、食文化が荒れて、見直す動きがあったのだろうと想像する。半世紀近くを経た今、私たちは正しく食べることができているだろうか。私自身は全く知識も自信もないが、今回、食習慣を見直すよい機会をいただいたと思っている。大きな社会変化に直面したとき、人は生活を見つめ直す。生活の根幹は、食べることだ。このコロナ過で、食生活の見直しは急速に進むだろう。

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