8月も後半に入り、畑の作物はすくすく成長していた。前日に降った雨が土の中に染み込んで残っていた。丘の斜面にある広い畑には一面キャベツが植えられており、ここでひとりメンテナンス作業をしている女性が山本さんだった。足元が悪い上に勾配があるから歩くのも容易ではないはずだが、しっかりとした足取りで黙々と作業をされていた。丸巳のパートスタッフの中で勤続年数が最も長い山本さんは、会社にとって「宝物のような存在」だという。
1983年(昭和58年)、山本さんがパートを始めた当初は、まだ丸巳の畑はノカナンにあった。37年前のことだから、山の風景も町の様子も今とはずいぶん違っただろう。忠別ダムが建設される前のことである。きっかけは「友人に誘われて」というから、こんなに長く勤めることになるとは思っていなかったかもしれない。それまでは、外で働いたことはなかったそうだ。
当時は、大根なども手で抜いていました。何本かまとめて袋に詰めて、トラックの荷台に担ぎ上げる。今は機械化で作業が楽になりましたね。」
山本さんの作業は、草取りや間引きなどが中心。一見単純な作業でも、ベテランのスタッフが見ることで、作物の生育状況や畑の状態で気づくことがあり、そうした現場の情報がきちんと管理に反映されることで状況の変化に応じた対応が可能になる。
年齢に応じた作業をさせてもらっていて、腰を曲げての作業は大変だけれど、重いものを持つことはないし、長く続けれられるように配慮してもらっていると思います。
草取りで抜く「雑草」には様々な種類がある。中には抜いても地面に放置しておいたらまた根を伸ばしてしまう生命力の高いものもあり、そのような場合は抜いたものを袋詰めしたりもする。日々変化する作物と向き合い正しく対応するには経験と共にセンスを要する。40年近い経験を持つ山本さんは、やはり宝物なのである。
収穫繁忙期を経て11月に入り、日に日に気温が下がる。畑での作業はすっかり終わっているだろうと思っていたところに連絡があり、取材へ行くことになった。気温は0度に近く、何といっても風が冷たい。丘の上の畑に立つと、吹き付ける寒風によろめき、目を開けるのもやっとである。例によって足元は徹底的にぬかるんでいる。
畑では刈り取られて泥を被った野菜を束ねて、地面に挿した鉄製の金具に打ち付けている。泥を落としているようだ。足元をよく見ると野菜の正体はミツバだった。なぜこの過酷な環境で作業をしているのか。気温が下がると栄養が根に蓄えられ、よい株ができるのだという。だから凍ってしまわない限り、寒ければ寒いほどいいらしい。
山本さんは、泥を落とした束を専用の木箱に積んでいた。積み重ねられた束の葉の部分だけを切り落とし、根を残す。これを株として、ハウスの中で栽培するのである。きれいに切り落とすためには、やはり積み方にも感覚的な調整が必要らしく、「やはり山本さんでないと」となる。ちなみに三角の編笠を被っているのは、ベトナム人実習生である。暑い国からきた人たちにこの寒さは堪えるだろう。
今度ミツバを食する時は、この寒さと山本さんたちの姿を思い出しながら、噛み締めようと思う。